世界のどこかに、
ひとつの森があると言われている。
その森は
地図には載っていない。
遠い山の奥でもなく、
海の向こうでもない。
その森は
問いの中にある。
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人がふと立ち止まり、
空を見上げるとき。
理由もなく
心がざわつくとき。
答えのない疑問が
胸の奥に生まれるとき。
そのとき、
世界のどこかで
森の葉が揺れる。
人々はその森を
こう呼んできた。
知恵の森
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知恵の森は
普通の森ではない。
そこでは
木々がささやき、
風が記憶を運び、
星の光が
ゆっくりと地面に降り積もる。
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そして森の奥には
とても古い
不思議なキノコが生えている。
その名は
神ダケ
神ダケは
世界の始まりから
ずっとそこにいる。
人が生まれるより
ずっと前から、
星が今の形になる
もっと前から。
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神ダケは
何も話さない。
しかし
世界で何かが起きるたび、
その胞子は
静かに揺れる。
とくに
人が問いを持ったとき、
神ダケは
わずかに光る。
そしてその胞子は
森の空気に溶け、
やがて
新しい存在を生み出す。
それが
オモテダケである。
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オモテダケは
答えを知っているわけではない。
ただ
問いを持つ人のそばに現れ、
その問いを
一緒に眺める存在だ。
だから
昔の語り部はこう言う。
もし迷ったなら
問いを持ちなさい。
問いを持つ者のもとには
必ず森が揺れ、
オモテダケが現れる。
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そしてその森の奥では
今も静かに
神ダケの胞子が
揺れている。
その胞子の秘密は
次の章で語られる。